・頭頸部がんとは、どんながんですか?
頭頸部がんとは、頭蓋底から鎖骨の上の範囲に発生するがんのことをいいます。喉頭がん(こうとうがん、呼吸をして声をだすのど)、咽頭がん(いんとうがん、息をしたり飲み込んだりするのど)、甲状腺がん、舌がん、上顎がんが代表的ですが、まれに耳の中やつばをつくる唾液腺にもがんは発生します。耳鼻咽喉科が日頃から診察、治療している部位で、以前から我々耳鼻咽喉科医が責任を持って診療にあたってきました。がんは全身の疾患であるので、医師が中心の耳鼻咽喉科での治療がより適切であると考えられます。喉頭や、咽頭、口腔ではタバコや飲酒が大きなリスクファクター(危険因子、発生要因)となっています。禁煙やお酒を控えることにより防ぐことができるがんです。日本では年間8000−9000人程度の方が頭頸部がんでなくなっているものと推定されています。これは胃がんの約6分の1程度です。
甲状腺がんはその他の頭頸部がんとは異なり、タバコやお酒との関連は証明されていません。甲状腺はホルモンをつくる内分泌臓器で他の頭頸部癌とは取り扱いが異なります。繊細な手術の技術が要求されます。
・診断はどのようにおこなうのですか?
頭頸部がんは比較的観察しやすい部位で、例えば口の中であればすぐに見えます。しかしながら意外に見過されたり、症状を我慢して、進行がんになってから受診される方も多くみられます。
診断は肉眼での診察や、内視鏡を使用した診察で疑わしい部位があれば、その部位をすこし採取して組織検査を行います。これを生検といいます。これでがんと診断がつけば、次は進行度を調べます。そのために部位や状況に応じてCTやMRI、PET-CT検査を行います。中には診断が困難で検査のための手術を要する場合や、血液中の腫瘍マーカーを測定することもあります。
甲状腺がんでは超音波検査と、針生検(細い注射の針で細胞をとってしらべる)が標準的な検査です。
・治療はどのようにおこなうのですか?
頭頸部がんは顔や口、のどの病気ですから、むやみに大きく切除すると手術後に顔が変形したり、発音が不明瞭になったり、食べ物の飲み込みが困難になったりします。現在では手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤)をうまく組み合わせて、なるべく障害が小さくなるように工夫して治療を行います。
一般的に早期がんであれば、手術は比較的短期間に治療が終了します。
放射線治療は、一回の治療は数分ですが、すべてを終了するのに6−7週間ほどかかります。これは放射線の副作用を抑えるためにすこしずつ照射するためです。最近では外来で通院しながら治療するかたが増えています。
化学療法は最近進歩が著しく、新しい治療法が次々に開発されています。抗がん剤は効果と副作用が同時に出ることが多く、この治療法に詳しい専門家チームの関与が必要です。当院は地域がん診療拠点病院で特に化学療法に優れた病院として指定をうけています。
当科では抗がん剤の治療ではTPF療法といわれる強力な抗がん剤を3剤くみあわせた効果的な治療法を積極的に行っています。この治療法は効果も強力ですが、副作用(有害事象)も強くでますので、しっかりとした支持療法(吐き気や、発熱、食欲不振などへの対策)を行って安全に施行しております。
また2012年末に頭頸部がんに待望の分子標的薬アービタックス®(セツキシマブ)が頭頸部がんで認可され使用可能になり、その後新しい薬剤が続々と開発されています。
・再発転移癌では、オプジーボ(免疫チェックポイント阻害剤)の使用も認可され今まで有効な治療法がなかった患者さんでも効果をあげています。腫瘍内科と共同で治療にあたっています。
・2019年12月末には2剤目の免疫チェックポイント阻害薬であるキイトルーダも認可されました。再発転移頭頚部癌の初回治療として使用可能で、効果が期待されています。実際当科でも、従来の治療で効果が期待できないような症例で目をみはるような効果を確認しています。
甲状腺がんでは、外科的にきちんと切除することが大変重要です。周囲の神経や、気管や喉頭にひろがっている場合は特別な処置が必要です。術後は放射性ヨードの内服治療や甲状腺ホルモンの補充療法が必要になる場合があります。当科ではのどの神経を安全に保存して、また副甲状腺(カルシウムを調節するホルモンをだす)を確実にのこすように細心の注意を払っています。当院では安全性を重視して従来法(外切開)をおこなっています。内視鏡手術はおこなっておりませんのでご了承ください。
・当科の具体的な治療方針は?
おおまかな概略をお示しします。
喉頭がん、咽頭がんでは
早期 放射線治療だけで高率に治癒、場合によってはレーザー切除など。
進行期 放射線治療と化学療法の同時併用または手術。残存、再発した場合は手術。
舌がんでは
早期 2cm以下では切除が中心です。
進行期 強力な抗がん剤療法と放射線療法または再建を伴う手術。これら治療で残存、再発した場合は移植をともなう拡大再建手術。
上顎がんでは
早期 内視鏡での切除や上顎部分切除。
進行期 強力な抗がん剤療法と放射線療法または・かつ手術、残存再発した場合拡大手術を追加。
耳下腺がんでは
早期 手術による摘出。
進行期 切除と切除後放射線治療(化学療法併用も)。神経再建や顔面形成も同時に行います。
甲状腺がんでは
早期 甲状腺半切と中心部リンパ節郭清。
進行期 甲状腺準全摘または全摘と中心部、側頸部リンパ節郭清。のどの神経(反回転神経)や副甲状腺の温存に努めています。
・その他の治療法
頭頸部再建手術
進行がんで再発した場合、ある程度の機能障害はやむをえませんので大きく切除して、その後の治癒を期待します。その切除後の欠損部をお腹の筋肉や脂肪、皮膚や腕や脚の皮膚、腸を血管吻合して移植し再建します。当科ではこのような手術に150例以上の経験をもつ医師が治療にあたっており、このような高度の技術を要する手術も安心して受けていただけます。
緩和ケア
緩和ケアは末期患者の痛みをとるだけの治療ではありません。現在では治療の早期から様々な不快な症状や痛みを取り除く治療としておこなわれています。当科では、放射線化学療法の不快な症状を和らげるために、さまざまな工夫を行っています。当科では抗炎症剤や鎮痛剤をうまく組み合わせて経口摂取で治療を完遂できるかたが多くいらっしゃいます。医療用麻薬も積極的に併用しています。栄養的な配慮は十分に行い、栄養不足にならないように配慮しています。
また当院の緩和ケア外科の村上医師はこの領域での造詣が深く、共同で進行期、終末期の患者さんのケア、在宅医療への移行も積極的におこなっております。
(Last update 04/01/2021)