高齢化社会で問題となる循環器疾患について
2025年問題にもあるように、団塊の世代がもうすぐ75歳以上の後期高齢者となり、日本は世界に類をみない速度で高齢化が進んでいます。現在、日本人の死因の第1位は“癌”ですが、こと85歳以上では、“心臓病”の方が第1位になります。人間は高齢になるとさまざまな心臓血管病が発症しますので、今回は特に重要な2つの病気を紹介します。
①心房細動(不整脈の一種)
久山町研究(注1)では、80歳以上の5~10%にこの不整脈が生じていることが報告されています。心房収縮がなくなり心臓がバラバラに打つようになって動悸や胸苦、心不全の原因となります。また、心房内に血栓ができやすく、それが流れて脳血管に詰まって大きな脳梗塞を生じます(ミスタープロ野球もこれが原因で脳梗塞に)。これらを予防するために血液抗凝固薬(サラサラ)や抗不整脈薬の服用が必要ですが、重い副作用が生じたり、効果が不十分なこともしばしばあります。そこで当科では、電極カテーテルを心房内の適切な場所にあてがい、高周波電流を流して不整脈の原因を焼灼(注2)する治療(カテーテルアブレーション)を行っています。入院が必要ですが、成功すれば薬物より良い効果が得られます。
②心血管動脈硬化症(狭心症・心筋梗塞・下肢閉塞性動脈硬化症)
動脈硬化は、糖尿病・血圧やコレステロールが高い人・喫煙者などで生じやすく、脂質や炎症細胞が動脈内に溜まって、血流を阻害し重要な臓器に障害を起こします。そもそも動脈硬化は血管の老化現象そのものであり、高齢者に頻発します。心臓では狭心症や心筋梗塞になり、足の血管では閉塞性動脈硬化症になります。動脈硬化は薬剤で溶かせないため、心臓や下肢の血流を良くする処置が必要です。当科では心臓血管外科と協力して、バイパス手術やカテーテル治療で血流を改善する治療を積極的に行っています。
ヒトは老化により心臓血管病を生じる宿命です。健康寿命を延ばすためにも、心臓検診をしっかり受けて、自覚症状のある方は我慢せず、病院を受診することが大切です。
循環器内科 診療部長
桶家 一恭
注1:九州大学大学院医学研究院による、福岡県久山町(人口8,400人)の地域住民を対象に、50年間以上にわたる生活習慣病(脳卒中・虚血性心疾患、悪性腫瘍・認知症など)疫学調査
注2:ショウシャク、焼くこと。特に、病気の組織を電気や薬品で焼いて治療すること。