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ニュース&トピックス

M先生のコラム

心の投資~読書の効用~

今回からは心の投資、すなわち読書を

取り上げてみます。

本は人類の智恵そのもの、

読書から得た知識や感動は、

お金のように無くなることも、盗まれることもなければ、

歯のように抜けてしまうこともありません。

人生の豊かさに直結するという点で、

すべての投資の中でもっとも

リターンの大きいものだと思います。

一冊との出会いが人生を変えたという方もあるでしょう。

私が今まで出会った本の中で、心に残るいくつかを

ご紹介します。

まずは『モモ』(ミヒャエル・エンデ)から。

医学生時代に書いたものです。

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『モモ』~私の人生を変えた一冊~
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先日、図書館の蔵書点検のアルバイトで、

十数年ぶりに『モモ』に再会しました。

懐かしくて思わず声をあげてしまいました。

皆さんは、ミヒャエル・エンデの『モモ』を知っていますか。

この本は、私の人生を変えた一冊です。

初めて読んだのは小学生のときでした。

モモというのは、主人公の女の子の名前です。

背が低く、やせっぽちで、くしゃくしゃの髪に

みすぼらしい服を着た浮浪者です。

しかし、この小さな女の子を近所の人たちは

とても大切にしていました。

モモのところには、いれかわりたちかわり

人が訪ねてきては、相談事を打ち明けます。

何かあると「モモのところに行ってごらん!」

というのが、みんなの決まり文句になっていたほどです。

子供も大人も、モモのことが大好きでした。

でも、どうしてモモはこんなにも慕われたのでしょう。

モモは別に、訪れる人に何かいい考えを教えてあげたり、

心にしみる言葉をいってあげたりできたわけではありません。

歌や楽器、踊りや曲芸など、人の心を明るくするような才能が

あったわけでもないですし、どんな悩みや苦労も吹き払えるような

不思議な呪文を知っていたとか、魔法が使えるということでもありません。

もちろん手相を占ったり、未来を予言したりできたわけでもありません。

小さなモモにできたこと、それは「相手の話をきく」ことでした。

モモに話を聞いてもらっていると、どんな人にも急にまともな考えが浮かんできます。

モモがそういう考えを引き出すようなことを言ったり質問したりした、というわけではないのです。

彼女はただじっと座って、注意深く聞いているだけです。

その大きな黒い目は、相手をじっと見つめています。

すると相手には、自分のどこにそんなものが潜んでいたかと

驚くような考えが、すうっと浮かび上がってくるのです。

どうしてよいかわからずに思い迷っていた人は、

急に自分の意志がはっきりしてきます。

ひっこみ思案の人には、急に目の前が開け、勇気が出てきます。

不幸な人、悩みのある人には、希望と明るさが沸いてきます。

時に生きる意味さえ、見出していく人もいます。

当時の私には、どうして人の話を聞くだけで、

こんなことが起きるのか理解できませんでした。

いつだってクラスの人気者は、面白いことが言えて、

人を沸かせるようなパフォーマンスのできる人でしたから。

しかし、高校に入って、その訳がわかるときがきます。

モモそっくりな友達ができたのです。

彼はスポーツも成績も中の上、背も低く、顔も地味で

これといった珍しいところはないのに、

なぜかいつも周りに人が集まっていました。

彼は人の話を決して流さず聞きました。

よく頷き、上手に相づちを打ってくれるので、

話す方は嬉しくなってしまって、驚くほどおしゃべりに、

そしてとても満たされた気持ちになりました。

「話をきくこと」の大切さを、私はそのとき知ることができたのです。

人は余裕がなくなると、ついつい相手の話を

途中で切り上げてしまいます。特に医療の現場は

限られた時間内に多くの患者さんをみなければならず、

一人にかけられる時間はほんのわずかです。

忙しそうな医師や看護師に遠慮して、うまく話を打ち明けられず、

心の中でため息をつく患者さんも多いのではないでしょうか。

私は、医学部に入り、時に医学は人生の苦しみに

無力なことを知りました。しかし、たとえ病が治らなくても、

その苦しみを受け止め、心に寄り添うことで、

人はどれだけ救われるかわかりません。

何も特別なことはできなくても、人に幸せを届けられることを、

モモは教えてくれました。

『モモ』は私の生き方に根っこを与えてくれた本です。

忙しいとき、余裕がないときにこそ、手にとって原点を確認したい一冊です。

 

本藤 有智
真生会富山病院 消化器センター
厚生連高岡病院 消化器内科 非常勤医師