子宮頸がんとその予防
(医局研究会 2019.09)
産婦人科 福田 香織
子宮頸がんは子宮がんの約7割程度を占め、以前は発症のピークが40~50歳代でしたが、最近は20~30歳代の若い女性に増えてきており、30歳代後半がピークとなっています。国内では、毎年約1万人の女性が子宮頸がんにかかり、約3000人が死亡、患者数も死亡率も増加しています。年齢別の死亡率では、39歳以下で年間約200人、44歳以下で約400人が子宮頸がんにより死亡しています。
子宮頸がんの原因のほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)感染といわれています。子宮頸がん予防ワクチンにより、いくつかのHPVの感染を予防することができます。HPVの中でも主要な原因となる HPV16 型および18 型に対する2価ワクチンと、16 型・18 型および尖形コンジローマの原因となる6型・11型の4つの型に対する4価ワクチンが国内では接種できます。2価ワクチン接種後、16・18以外のHPVに対しても予防効果がみられたとする報告もあります。海外では9価ワクチンが認可され、この9価ワクチンは子宮頸がんの原因となるほとんどのHPV型を網羅するため、普及すれば子宮頸がんの90%以上が予防可能になると期待されています。子宮頸がん検診のみでは感度(子宮頸がんや前がん病変を有する人が検診で陽性を示す割合)の問題や受診率の低さがあり、子宮頸がんを効果的に予防することは困難であり、ワクチンと検診を組み合わせることでより効果的な子宮頸がん予防が目指されます。
HPVワクチン接種を国のプログラムとして早期に取り入れたオーストラリア・イギリス・米国・北欧などの国々では、HPV感染や前がん病変の発生が有意に低下していることが報告されています。これらの国々では、ワクチン接種世代と同じ世代のワクチンを接種していない人のHPV感染も低下しています(集団免疫効果といいます)。諸外国では、男子へのワクチン接種もすすめられています。オーストラリアでは、男子のワクチン接種率は70%を超え、子宮頸がん検診とHPVワクチンなどの子宮頸がん予防プログラムにより、子宮頸がんの年齢調整罹患率は2020年には希少がんの基準を達成し、2028年にはさらに少ない撲滅の基準である年間罹患数が人口10万人あたり4例未満となると推計されました。また最近のフィンランドの報告によると、HPVに関連して発生する浸潤がんが、ワクチンを接種した人たちにおいては全く発生していないとされています。HPVは子宮頸がんだけではなく、肛門がん、陰茎がん、咽頭がんなど男性も罹患する可能性があるがんの原因にもなっていますが、これらはウイルス感染以外の原因もあるため、費用対効果の点から、男性へのワクチン接種をプログラム化されている国はまだ少数です。
一方、国内においても複数の研究では、新潟県、大阪府での研究において、ワクチン接種者におけるHPV感染率の低下がすでに示されています。名古屋県の研究では、問題とされたワクチン接種後の「多様な症状」は、ワクチン接種・非接種者に同程度存在し、ワクチン接種との間に関連性がみられなかったことが示されました。WHOからも日本に対して接種勧奨の再開を促す声明が繰り返し発出されています。現在、接種後に何らかの症状が現れた方のために、診療相談窓口が全国 85 施設(全ての都道府県)に設置されています。
HPVワクチンは積極的勧奨は中断されていますが、定期接種としての位置づけに変化はなく、公費助成による接種が可能となっています。接種をうける側、接種を担当する医療者の双方がHPV ワクチンについて科学的根拠に基づく正しい知識を共有した上で、相互の信頼関係のもと、接種をするかしないかを1人1人自らが選択することが重要です。
<参考・引用文献>
http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4