当院における緩和ケアセンター運営の現状 ~緩和ケア病棟を中心に~
(医局研究会 2017.8.31)
緩和ケアセンター
厚生連高岡病院 緩和ケアセンター
村上 望・塚田健一郎・大島正寛・澤田幸一郎・中嶋和仙・石倉 恵美
【はじめに】
当院において、2016年8月から緩和ケア病棟が開設された。これと同時に院内外の緩和ケアの取り組みを推進する目的で緩和ケアセンターが設置された。今回、緩和ケアセンターの運営状況について、主に緩和ケア病棟の運営を中心に本年3月までのデーターを元に報告する。
【対象と方法】
2016年8月から2017年3月における当院緩和ケア病棟入棟患者を対象として、後方視的に電子カルテにて調査した。対象症例における緩和ケア病棟からの在宅移行要因および在宅看取り要因についての統計学的解析は、解析ソフトJMP® 10.0.2 (SAS Institute Inc.)を用いて解析を行った。また、緩和ケア病棟および他病院転院・施設転所症例を病院療養群、在宅緩和ケア地域連携パスを利用して在宅医、訪問看護師やケアマネジャー同席のもと退院前合同カンファレンスを行い、1日でも在宅療養を行った症例を在宅療養群として、各群間の生存期間の比較についてKaplan-Meier法にて有意差検定を行った。
【結果】
入棟患者は81名で、年齢は平均72.4歳であった。また性別では、男性56%、女性44%であった。院内紹介における診療主科は、消化器内科が34例、腫瘍内科20例など多い傾向を認めた。疾患としては、肺癌が16例、胃癌14例、肝癌8例などが多く、再発・転移部位では、リンパ節15例、骨14例、肝13例、癌性腹膜炎13例などが多く認められた。主訴としては、疼痛35例、倦怠感16例、呼吸困難12例などが多く認められた。入院時のPSは平均3.3で、予後予測では平均のPPIが5.14と予後予測として1ヵ月前後の症例が多かった。第1回目の入院期間は平均24日で、第2回目入院は平均20.8日であった。再入院理由としては、呼吸困難が7例、疼痛5例などが原因となっていた。在宅移行症例の在宅療養期間は平均33.8日であった。
緩和ケア病棟運営コンセプトである在宅緩和ケアのアウトカムについて調査した。療養場所によって、緩和ケア病棟入棟後、1日も自宅へ戻ることなく緩和ケア病棟および他病院転院・施設転所において死亡した症例を病院療養群、在宅医・訪問看護師・ケアマネジャーへ依頼させていただき、在宅緩和ケア地域連携パスを使用して 退院前合同カンファレンスを行ったうえで、1日でも在宅療養を行うことができた症例を在宅療養群と分類した。在宅療養群は81例中24例で29.7%であった。この中で、調査期間中確認し得た症例では、在宅看取り率は在宅療養移行症例18例の内6例(33.3%)、緩和ケア病棟入棟患者69例中6例(8.7%)であった。また病院療養群と在宅療養群の生存期間について比較したところ、病院療養群は生存期間中央値22日、在宅療養群42日(P=0.0055(<0.01 ))と有意差を持って在宅療養群が長期生存していた(図1)。
次に、緩和ケア病棟において在宅緩和ケア移行に影響を与える因子について調査した。まず性別・年齢・疾患・PS・PPIなど主に身体的要因について単変量解析を行った。この結果、入棟時PPIおよびPSが低いこと(つまり全身状態が比較的保たれていること)が有意差を持って要因であることが判明した。また、在宅看取り率における要因については、有意差を持った要因は抽出されなかった。
次に、本人および家族の意向と在宅緩和ケアについて調査した。この結果、在宅緩和ケア移行に影響を与える因子として、家族の意向が有意差を持って強く関与していることが判明した。また在宅看取り率における要因についても同様に家族の意向が有意差を持って強く関与している結果であった。
【考案】
今回の調査の結果、①緩和ケア病棟から在宅緩和ケア移行において、予測予後が長い状態の良い症例が、在宅移行および在宅看取りの可能性が高く、また②在宅移行および在宅看取りともに、家族の意向が強く反映されていた。今後の課題としては、がん治療の継続と緩和医療および在宅緩和ケア移行のタイミングについて、今まで以上に慎重な判断が期待される。また緩和ケア担当医療者においては、可能な限りの症状マネージメントといかに家族力を高めるかが課題となる。
【結語】
急性期病院における緩和ケア病棟において、その運営上重要な取り組みとして地域との有機的連携が必要となる在宅緩和ケアについて一定の知見を得た。今後、在宅医をはじめ地域医療・介護・福祉担当者の皆様と顔の見える信頼関係のもと、さらなる有機的病診連携によって在宅緩和ケアを推進する必要がある。
また、今回の医局研究会において、がん患者さんにおける入院料算定の規則など急性期病棟における治療から在宅復帰の流れにおいて、地域包括ケア病棟と緩和ケア病棟の選択についても説明させていただいた。
また、先生方には大変ご負担をおかけしてご協力いただいた緩和ケア研修会について、本年6月の段階で厚生労働省が修了を義務付けている、院内のがん患者さんの診療に携わる医師の90%以上、卒後2年目から5年目までの研修医の先生方100%、さらに院長の受講に関して当院はすべてクリアしたことも報告させていただいた。
緩和ケア病棟運営および緩和ケア研修会受講に関しても、院内の先生方のご理解とご協力に感謝したい。
図1
病院療養群 生存期間中央値 22日
在宅療養群 生存期間中央値 42日
Longrank 0.0055 (<0.01 )
(平成28年8月~平成29年3月:PCU入棟症例 平成29年5月31日現在の予後調査)