非小細胞肺癌薬物療法の進歩と当科の貢献
(医局研究会 2017.07)
腫瘍内科 柴田和彦
当院赴任から20年がたち、その間に著しい進歩を遂げた肺癌薬物療法を概説し、多少なりともその進歩に貢献してきた当科の関りについて述べてみたい。
1995年にシスプラチンを含む多剤併用化学療法の生存期間延長効果が初めてメタ解析によって証明された。私が赴任した1997年は現在標準的化学療法の一翼を担う第三世代抗癌剤がつぎつぎ上梓される始まりの年だった。第三世代抗がん剤の一つドセタキセルの市販後第Ⅲ相臨床試験に参加の機会を得、この試験では第二世代の併用療法に比べてドセタキセル併用療法が、生存期間で明らかに優位に延長することが示された。また日本発の経口抗がん剤S-1の併用療法とドセタキセル併用療法との比較試験では、前者の後者に対する生存期間の非劣性とQOLの優位性が証明された。2003年にEGFR阻害薬ゲフィチニブが世界に先駆けて発売され、その後EGFR変異陽性例に対して著効を示すことが示された。EGFR遺伝子変異陽性例を対象とするゲフィチニブの複数の第Ⅱ相試験で良好な成績が確認され、初回治療としてゲフィチニブと化学療法を比較する2つの試験が行われた。その内一つWJTOG3405試験に我々も参加し、ゲフィチニブが無進行生存期間で明らかに優れていることを示した。またEGFR阻害薬同志を直接比較する試験では、両者に明らかな差がないことが示された。がんの薬物療法には支持療法が必須であり、特に化学療法誘発悪心嘔吐(CINV)のコントロールは重要な課題である。第二世代HT3受容体拮抗薬パロノセトロンの高度催吐性レジメンにおける役割に関する全国規模の比較第Ⅲ相試験(薬剤師主導で当院薬剤部にもご活躍いただいた)では、第一世代薬に比べてパロノセトロンを使用した予防法が遅延性CINVを抑制することを示し、この結果を受けて、当院における高度催吐性レジメンに組み込まれていた制吐剤はすべてパロノセトロンに変更した。現在、さらにオランザピンを追加する予防法がより良好なCINVのコントロールに寄与するかを検討する試験にも参加し、症例集積中である。