当院での遺残胎盤の管理について
(医局研究会 2016.08)
産婦人科 生水貫人
当院における平成27年度の分娩件数は484件であり、その中には通常のお産からハイリスク症例のお産まで様々です。そのすべてが安全なお産となるように管理を行っていますが、お産には出血がつきもので、分娩後の大量出血がしばしば問題になることがあります。単胎の経腟分娩では800ml以上の出血で分娩時異常出血とされることが多いですが、逆に言えば、750mlの出血となっても異常出血とされないことからも分娩時の出血がいかに多いのかということが分かると思います。分娩後出血が特に多くなった場合は「産科危機的出血」とよばれ、日本では平成22〜24年妊産婦死亡の原因の第1位(28%)となっています。遺残胎盤は、癒着等が原因で分娩後も子宮内に胎盤が排出されずに残ってしまう状態を指し、産科危機的出血となることがあります。
遺残胎盤で大量出血した場合には子宮収縮薬を使用し、双手圧迫、長ガーゼ充填等を行い、一次止血を試みます。それでも出血が持続する場合は子宮全摘を行わざるを得ない状況がありますが、当院では子宮動脈塞栓術を行うことによって出血をコントロールし、その上で安全に遺残胎盤を摘出する方法をとっています。子宮動脈塞栓術は大腿動脈からカテーテルを挿入し、ゼラチンスポンジを用いて子宮動脈を選択的に塞栓することによって、一時的に子宮への血流を減らすものです。行えるのは出血がある程度落ち着いている場合ですが、①止血成功率が95%と高い、②妊孕性を温存できる、③合併症が少ない、といったメリットがあり、遺残胎盤などの分娩後出血が多い症例では良い適応となります。また当院では子宮動脈塞栓術を行える放射線科医が24時間体制で待機しており、富山県西部地区の分娩施設からの受け入れも行っています。
分娩前に遺残胎盤が起こるかどうかを判断することはとても困難で、ときに致死的な大量出血となることがありますが、当院ではいつどこでも起きても対応できるように備えています。