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学術コーナー

MRONJ(薬剤関連性顎骨壊死)の現状について

(医局研究会 2016.02)

歯科口腔外科 山下 知巳

骨吸収抑制作用を持つビスフォスフォネート製剤(以下BP)とデノスマブ(ランマーク、プラリア)や血管新生抑制作用を持つ抗がん剤(アバスチン、スーテント、ラパマイシン、ネクサバール)の使用中・後に、顎骨壊死が生じ、粘膜・皮膚に露出した状態がMRONJです。初期では無症状ですが、進行すれば疼痛、排膿、骨髄炎や顎骨周囲炎、顎骨の欠損に至ります。約半数が抜歯後の治癒不全として生じ、残りは歯性感染病巣(虫歯から生じた歯根尖の病巣や歯周炎からの歯周病巣)の放置や義歯不適による粘膜潰瘍から生じています。MRONJは通常の骨壊死と異なり、骨壊死が限局化せず進行していく事が問題で、癌・骨転移患者で生じたMRONJでは有効な治療法が確立されていません。骨吸収抑制作用の強いゾメタ(BP注射薬)やランマークなどが使用されている癌・骨転移患者では、生命予後に関係するため休薬が難しく、休薬できても薬剤の影響が骨に長期間残存することがMRONJ難治の要因と考えられています。当科でのMRONJ(3年間)は癌・骨転移患者で32例(すべて治癒なし)、骨粗鬆症患者で11例(5例は休薬と局所洗浄などで治癒)でした。
癌・骨転移患者で上記の薬が使用された後での抜歯等の口腔内観血処置はMRONJを引き起こす可能性が高く、とくにゾメタ(米国でMRONJ発症約15%、アジアでより高い頻度)やランマークでは避けるべきであるとされています。そのため、癌・骨転移患者では、可能であれば上記薬剤使用の前に必要な抜歯や歯性感染病巣の除去を行い、口腔内に骨露出がなく治癒(約3-4週後)してから薬剤を開始するのが理想と思われます(前処置でMRONJは1/2に減じるとされています)。
骨粗鬆症患者で使用される骨吸収抑制剤は作用が比較的弱いもの(BP内服やプラリア)が使用されており、MRONJが生じても、薬剤の休薬と洗浄などの局所対応で改善できる可能性が高いと思われます。BPの休薬が可能な症例では、抜歯などの観血的処置の前後に5ヶ月程度の休薬期間(プラリアでは抜歯前に6ヶ月)を設ける事が推奨されていますが、休薬不能であれば患者さんにMRONJ発症のリスク(米国で約0.5%、アジアではより高い頻度)を説明し、同意をいただいて、休薬せずに抜歯する事も可能と思われます。
以上、2014年の米国のMRONJ公式見解に沿った説明でしたが、最近では、骨粗鬆患者でのMRONJは、骨同化作用をもつ副甲状腺ホルモン剤(フォルテオ、テリボン:2年ほどの使用期限あり)を用いて治癒できることが明らかになりました。今後、同様の症例では積極的に整形外科と連携し対応してきたいと考えております。将来、癌・骨転移患者のMRONJでも副甲状腺ホルモン剤が応用されるか、または新しい治療法が開発されることを期待しています。