IgG4関連疾患について、病理学的事項を中心に
(医局研究会 2015.07)
病理診断科 野本 一博
IgG4関連疾患は、血清IgG4高値とIgG4陽性形質細胞の組織浸潤をきたし、腫瘤形成または肥厚性病変を形成する疾患群である。日本から世界に発信された疾患で、日本の研究者の果たした役割は大きい。IgG4関連疾患は、涙腺、唾液腺、リンパ節、甲状腺、肺、心臓、乳腺、肝臓、膵臓、胆管、大動脈、後腹膜、前立腺などの全身諸臓器に、異時性あるいは同時性に、単一の臓器または複数の臓器に発生する可能性がある。全診療科の臨床医に周知が必要であるにも関わらず、当該疾患の認知度は低いと思われ、既存の疾患と混同されたり、原因不明疾患として取り扱われてきた症例もあると考えられる。IgG4関連疾患は適切な治療を行えばコントロール良好の疾患であるにも関わらず、臓器癌や血液悪性疾患と間違われ治療されてきた症例が存在すると思われる。発症患者の平均年齢は62歳であり、女性よりも男性に優位に発症すると考えられ、国内の患者数はおよそ26,000人と推計されている。自己免疫疾患的な側面を持つ一方、アレルギー性疾患の合併が高頻度に認められるという特徴を有する。慢性経過をとることより、持続的な抗原感作が起こっている可能性があるが、明らかな原因は特定されていない。
IgG4関連疾患を診断するゴールドスタンダードは病理診断である。HE染色の組織形態と免疫組織化学の結果を総合して判断する必要がある。2011年10月に、ボストンにおいて、第1回IgG4関連疾患国際シンポジウムが開催された。この時の議論をもとに、2012年に、病理組織像に関する国際コンセンサス論文が発表された。それによると、リンパ球形質細胞浸潤、花むしろ状線維化、閉塞性静脈炎の3つが、主要な組織学的特徴とされている。また他の特徴的な所見としては、閉塞を伴わない静脈炎、好酸球の増加が記載されている。また、IgG4関連疾患では通常認められない所見として、好中球浸潤、壊死、膿瘍、壊死性血管炎、肉芽腫などが挙げられ、これらの所見が存在する時は別の疾患が示唆される。以上の所見に加え、免疫組織化学的検討で、IgG4陽性細胞とIgG陽性細胞の比が40%以上で、なおかつ、臓器ごとにIgG4陽性形質細胞の1高倍視野あたりの個数をもとに、IgG4関連疾患と診断することが提案された。尚、癌、リンパ腫などのIgG4関連疾患以外の疾患でも、IgG4陽性形質細胞が多数認められる場合があり、陽性細胞がびまん性に分布すること、IgG4陽性細胞とIgG陽性細胞の比が40%以上を占めることを確認することが重要とされている。病理診断がゴールドスタンダードとは言え、病理学的所見に加え、臨床的な所見を加味した総合的な判断が必要とされている疾患である。
今後の病理学的な問題点としては、どのような線維化を花むしろ状線維化と評価するか、生検でどこまで診断できるか、免疫染色(特にIgG)の過染の問題などが挙げられている。