気胸の話
(医局研究会 2014.10)
胸部外科 谷内 毅
気胸とは何らかの原因で胸腔内に空気が貯留し肺が虚脱した状態をいう.
気胸はその原因により内因性に発症する「自然気胸」,胸壁・肺・気管・気管支・食道などの外傷性破綻による「外傷性気胸」,治療などのために意図してもたらされた「人工気胸」,医療行為に伴う偶発的accidentとして生じる「医原性気胸」の4つに分類される.また,自然気胸は気腫性肺嚢胞(ブラ)の破裂による「原発性自然気胸」と臨床的に明白な疾患・薬剤が原因で発症する「続発性気胸」に分類される. 20歳前後の身長の高い痩せ形(いわゆる気胸体型)の男性に多いのが原発性気胸である.続発性気胸には60歳以降の喫煙歴のある男性に多い肺気腫が原因で発症する気胸や,肺表面や横隔膜に存在する異所性子宮内膜が原因で発症する子宮内膜症性気胸(月経随伴性気胸)などが含まれる.
自然気胸の重症度は肺の虚脱度によって以下の3つに分類される.「軽度(Ⅰ度)」肺尖が鎖骨レベルまたはそれより頭側にある,「中等度(Ⅱ度)」軽度と高度の中間程度,「高度(Ⅲ度)」全虚脱またはこれに近いもの.肺虚脱が中等度以上であれば初期治療として胸腔ドレナージが推奨され,高度であれば迅速な胸腔ドレナージが必要となる.安静やドレナージといった保存的治療(非手術治療)で治った場合の再発率は40-50%といわれている.
自然気胸の手術適応は以下のごとくである.①再発を繰り返す症例,②空気漏れの持続例,③両側性気胸,④著明な血胸,⑤膨張不全肺,⑥社会的適応.また,初発であってもリスクがなく,明らかな責任病変が認められる場合には手術適応としてよい.手術のアプローチとしては開胸手術と胸腔鏡手術があり,その再発率は開胸手術で5%以下,胸腔鏡手術で5-10%程度といわれている.その差の要因はブラの見落としによるものと考えられている.
手術術式としては自動縫合器によるブラ切除術が一般的である.術後の再発がゼロとならない原因として,術後のブラ新生という現象が挙げられる.肺切除線近傍でcheck valve現象が起こり,脆弱な胸膜領域にブラが再発すると考えられている.
術後の再発を予防するための補助的手段としては臓側胸膜と壁側胸膜との癒着を惹起するための壁側胸膜剥離術,壁側胸膜擦過術,癒着剤の散布,癒着目的の吸収性素材による肺表面の被覆などが行われてきた.しかし,このような胸膜を癒着させる方法では呼吸機能の低下,効果の不確実さ,再発時に胸腔ドレナージや手術が困難となるなどの問題がある.近年,再生酸化セルロースメッシュ(サージセルガーゼ型)で切離部周辺を被覆し,臓側胸膜を肥厚させて,ブラの新生や見落としがあっても再発を防止する付加的治療が考案され,当院でも再発例などに施行している.この方法では胸膜癒着は起こりにくいとされている.
保存的治療では近年,poor risk例や手術非適応症例の遷延する空気漏れに対し,責任気管支を塞栓することで肺からの空気漏れを止めようとする気管支鏡下気管支塞栓術が行われるようになってきた.2013年より専用のシリコン製の塞栓子も保険適応となり,当院でも呼吸器内科医師を中心に症例を重ねている.