大腸がんにおける腹腔鏡下手術
(医局研究会 2014.09)
外科 小竹 優範
近年、大腸がんの罹患率・死亡率は増加傾向にある。大腸がんに対し一般的には開腹手術が行われるが、日本でも約20年前より腹腔鏡下手術が導入された。腹腔鏡下手術とは、おなかの中に炭酸ガスを入れて膨らませ、臍から細い高性能カメラ(腹腔鏡)を挿入し、手術操作用の5-10mmの小さな孔を左右4か所に開け、腹腔鏡で腹腔内をモニターに映し出し、リンパ節廓清や大腸切除を行う手術である。腹腔内での操作を終えた後に病変を小切開創からおなかの外に取り出す。従来の手術では20cm前後の開腹創が必要とされたが、腹腔鏡下手術では、3~5cm程度の開腹創で済むため、患者さんにもたらす効果は、開腹創の縮小化→手術直後の痛みの軽減→早期離床→排ガス・排便の早期化→早期の食事開始→早期退院となり、「低侵襲手術」と言われている。さらに症例によっては、単孔式手術と言われる臍の小さな創のみで手術を行う方法もある。腹腔鏡下手術の利点は低侵襲性だけではなく、高性能ハイビジョンの腹腔鏡を導入し、従来の開腹手術では見えにくかった部位や細かい血管・神経まで見え繊細な手術操作が可能となった。特に狭い骨盤内での手術は難易度が高いが、直腸がんの手術では、ハイビジョン腹腔鏡の良好な視野により、根治性を保ちながら周囲の自律神経を温存する質の高い手術が可能となる。また数年前までは、肛門に近い下部直腸がんに対しては、肛門を残せないとされてきたが、現在では条件を満たせば、肛門機能を残すための手術(括約筋間切除術)が可能となり、当院でも、腹腔鏡下手術での肛門温存に積極的に取り組んでいる。ただし、肛門を温存してもその後の排便機能低下の問題があり、高齢者の場合は、人工肛門にした方が生活の質が保たれると判断する場合もある。また下部進行直腸がん治療のもう一つの問題点である骨盤内側方リンパ節転移に対しても、当院では腹腔鏡下骨盤側方リンパ節郭清術を行なっており、さらなる局所再発率の低下、生存率の向上、自律神経温存を目指している。大腸がんに対する腹腔鏡手術は、日本では2002年4月から進行がんに対し保険の適応も認められており、また、より早く腹腔鏡大腸がん手術が導入された欧米では、進行がんに対しての長期成績が従来の開腹手術に劣らないことが報告されている。最近の当院では大腸がん手術のうちで腹腔鏡下手術の占める割合は9割を超えており、個々の患者さんに合わせた、根治性と安全性と低侵襲性に最も優れた治療を提供するために、積極的に新しい治療法の導入に努めている。腹腔鏡下手術や大腸がん治療に関して、気になることがございましたら、外科外来にてご相談ください。
高性能ハイビジョン3Dシステムによる腹腔鏡下手術の風景