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厚生連高岡病院

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ニュース&トピックス

学術コーナー

PEG~人生を支えるもう一つの口~

(医局研究会 2014.07)

消化器内科 本藤 有智

PEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:経皮的内視鏡下胃ろう造設術)とは、内視鏡を使用し、胃壁と腹壁の間に瘻孔を形成する内視鏡的手術を意味します。脳血管障害や認知症、神経筋疾患、上部消化管狭窄・通過障害等、口から食事をとることはできないが、消化管機能を有している患者に対して、胃に直接栄養を補給するアクセスルートを造ること、すなわち、“胃にもう一つの口を造る”ことです。開腹せずに内視鏡で短時間に造設できるため、爆発的に広まり、近年の新規胃ろう造設は20万件、交換件数は60 万件と報告されています。
一方、急激な胃ろう人口の増加から、種々の問題も表面化しました。安定した栄養補給が可能になった反面、食べられず、意思疎通もできない状態で、ただ胃ろうからの栄養で生かされ続ける高齢者が多く現れるようになったのです。その姿を「人間の尊厳が保たれていない」とし、胃ろうの導入に消極的になる風潮が高まっています。
医療界でも、平成24年、日本老年医学会より2つの声明が出されました。
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「胃ろう造設などの人工的な水分・栄養補給は慎重に検討し、患者本人の尊厳を損なったり苦痛を増大させたりする可能性があるときには、治療の差し控えや中止も選択肢として考慮する」(「高齢者の終末期医療およびケア」に関する「立場表明」2012 平成24年1月)
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「終末期であると診断された高齢者において、自分で食べることができないか十分に検討した上で、延命効果が期待できても生活の質が損なわれる場合には、本人の意向によって胃ろうなどをしない(または中止する)選択肢もある」
(「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」人工的水分・栄養補給の導入を中心として 平成24年6月)
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平成26年度の診療報酬改訂でも、胃ろう関連の点数は軒並み目減りし、胃ろう抜去術という点数が新しく算定されるなど、国をあげて胃ろうをつくらない方向で進んでいるように感じられます。
このような流れから厚生連高岡病院NSTでは過去8年間、当院で胃ろう造設された551例の患者家族にアンケートを行いました。177通の回答があり(内訳:患者自身6%、家族94%)、造設後の感想として「胃ろうをつくってよかった」と答えた人は約7割、「後悔」とした人は約3割でした(図)。

図 当院における胃ろう造設後の意識調査

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良かった理由は「体力がつき、再び食事がとれるようになった」「命を長らえ、家族の精神的な支えになった」。後悔では「本来の人間の生きている姿ではないと思う」「手術したが、うまく使えず、亡くなった」。
また、主治医からの説明が不十分としていた人は造設を後悔し、十分な説明を受けられたという人ではよかったと答えた人が多い傾向があり、事前の懇切な説明がその後の満足に影響することがわかりました。
適応を選べば、胃ろうは確かに命を延ばす力を持ちます。反面、口から食べられず、意思疎通ができない時期が長く訪れる可能性もあります。胃ろうはあくまで道具であり、道具そのものの善悪を論ずることはできません。胃ろうで生きている姿に喜びを見いだせるかどうか、が問われるのだと思います。