見逃すな! B型肝炎ウイルスの再活性化
(医局(医療安全)勉強会 2014.06)
消化器内科 寺田 光宏
B型肝炎ウイルス(HBV)の発見は、1964年、Blumbergらがオーストラリア原住民の血清から、後にHBs抗原とされる「オーストラリア抗原」を発見したのに始まり、1968年に我が国の研究者である大河内一雄らにより、オーストラリア抗原と肝炎との関連が報告され注目されました。そして1979年にHBVゲノムがクローニングされました。全世界では3億5千万、日本では150万人がこのウイルスに感染しており、肝硬変や肝細胞癌の主要な原因となっています。このウイルスは母子感染や幼少時の水平感染(父子感染や予防接種など)により感染すると持続感染(HBVキャリアとなる。)を来しますが、成人の水平感染(ほとんどが性感染)の場合は一過性でウイルスは生体から完全に排除される(HBs抗原が消失し、HBs抗体、HBc抗体ができて、HBV既感染の状況となり、臨床的治癒の状態。)と考えられてきました。ところが、その後の研究で、HBV既感染者においてもHBVは肝細胞核に安定して存在し、HBV-DNAの複製が長期間持続していることが明らかになりました。すなわち、HBVは一度感染すると生体から完全に排除することはできず、微量のウイルスが肝細胞に残存しているのです。そして、我が国において、HBVの持続感染者は約1.5%、HBV既感染者は20-30%と言われています。
2001年、Derviteらがリツキシマブ併用化学療法において、HBs抗原陰性症例におけるHBV再活性化例を初めてN Engl J Med 344;68-69(2001)に報告しそれ以降、HBVの再活性化が注目されるようになりました。すなわち、HBV感染者(持続感染又は既感染)において免疫抑制剤や化学療法によりHBVが再増殖することをHBVの再活性化と称し、再活性化による肝炎は一過性の軽症の肝炎から重症の劇症肝炎まで様々ですが、重症化しやすいだけではなく(特に、既感染者からのde novo B型肝炎は劇症化しやすく死亡率も高率です!)、肝炎の発症により原疾患の治療を困難にさせるため、発症そのものを阻止することが最も重要なのです。一方、再活性化を誘発する薬剤は、免疫抑制剤、副腎皮質ホルモン、抗悪性腫瘍剤、抗リウマチ剤、等多種にわたり、HBV再活性化の問題は、かつては骨髄移植や生体肝移植といった移植という特殊な医療設定での問題でしたが、リツキシマブが登場して状況が一変、一般臨床の現場におけるcommon diseaseとなってきました。そして、臨床の現場でなんら対策をとらずに、万が一HBV再活性化による肝炎を発症させてしまい不幸な転帰をたどり、訴えられれば、必ず敗訴します。すなわち、再活性化を誘発する薬剤を使用している患者さんがHBV感染者か否かを、意識していないと大変なことになるのです!(患者さんも主治医も!)
当院では、HBV再活性化のリスクを回避するために、①「ガイドライン」を電子カルテ上で参照可能にする。②各当薬剤がオーダーされると「警告」を出す。③「免疫・化学療法肝炎検査セット」の作成、およびレセプトへのコメントの反映。④「患者説明用文章」の作成。等の対応策を、医師・薬剤師・検査部・医事科・医療情報部、の多職種のチームで行う予定です。当院からHBV再活性化肝炎を根絶しましょう! 患者さんのためにそして自分自身のために。