2013年の感染対策を振り返って
(医局研究会 2013.12)
内科 東 滋
現在,感染対策において多剤耐性菌の増加は非常に憂慮すべき問題になっています。ただし,当院での分離頻度はそれほど多くはなく,専門家からは 『天国ですね!』 と評されました。一方,大都会の病院では,外国から高度耐性菌が持込まれアウトブレイクを来した事例が複数あります。このような,『天国』 と言われる状況でも,ちょっと油断すると院内感染が起こってしまいます。
今年経験した例ではセレウス菌によるものが印象的でした。セレウス菌は,我々の生活環境や自然環境に広く分布し,周りの環境が悪くなると芽胞を形成します。この芽胞は,100度30~40分の加熱や70%消毒用アルコールでは死にません。臨床現場では,洗濯機の中にも生息するため,その芽胞が病衣やシーツに付着しています。つまり,点滴ルートの接続部位など清潔に保たなければならない部位が病衣などに接すると感染する可能性があります(ただし,繁殖できる輸液製剤は限られます)。この問題は,持続点滴をされる方の病衣を,首から袖までファスナーで開けることができるタイプに変え,繁殖可能な輸液製剤の持続点滴を必要性がない限り行わない,という2つの対策が有効です。このように,感染対策は基本をおろそかにすることは決して許されません。
次に,インフルエンザに対しては日本感染症学会と関連する学会は,非常に強気です。それは,今までに日本の学会が発表してきたインフルエンザに対する対策を,WHO や CDC が後追いする形で発表を繰り返したこと。2009年のアウトブレイクの際には,アメリカに比べて死者が非常に少なかった事などが裏付けになっているからです。そんな,日本の学会は,今中国で起こっている H7N9 について 『死亡率は低いが,重篤な経過をたどる例がある』 として注意を喚起しております。ただし,日本の水準からして,決して適切な治療が行われたとは言えないと結んでいます。今後どうなるかは解りませんが,世界的なアウトブレイクになる可能性は低いと言われています。
感染対策という分野は,王道がありません。いつまでも 『天国ですね!』 と言われるように,皆様宜しく御願いします。