抗血小板・抗凝固療法が必要な循環器疾患と外科的処置
(医局研究会 2013.11)
循環器科 桶家 一恭
要約:
循環器疾患の多くは、“血管を詰らせないため”に抗血小板剤や抗凝固薬の抗血栓療法が施行されることが多い。抗血栓療法は、効果が強いと脳出血や消化管出血などの出血合併症を起こしたり、効果が弱いと脳梗塞や心筋梗塞などの血管閉塞を生じてしまうため、安全性と効果のバランスのとれた治療が必要である。しかし、このような適切な治療を施していても、外科的手術や内視鏡的処置などが必要になると、あえてそのバランスを崩して、観血的処置に対処しなければならなく、周術期に出血が問題となったり、心血管イベントが生じたりするリスクが高くなる。
抗凝固療法が必要な疾患の代表は、心房細動(Af)である。文献によるとAfを放置するとCHADS2スコアが高くなればなるほど、年間の脳梗塞発症率は高くなることが知られている。日本循環器学会の診療ガイドラインでは、CHADS2スコアの2点以上の非弁膜症性Afでは、ワルファリンが推奨され、1点でもワルファリンを考慮しても良いこととなっている。さらに、最近ではAfに対し、ダビガトランなどNOAC(Novel Oral Anticoaglant)が使用できるようになり、非弁膜症性Afに対し、ワルファリンと同様の推奨・考慮可となっている。
一方で抗血小板療法が必要な循環器疾患は、動脈硬化性疾患が主であり、その中止により心血管イベントリスクが90倍に高くなるのが、冠動脈ステント留置後の患者である。冠インターベンション(PCI)後の再狭窄を予防するために、薬剤溶出性ステント(DES)の使用が有効であったが、新たな問題として遅発性・超遅発性ステント血栓症が生じやすいといった新たな問題も浮上した。このようなDESの遅発性ステント血栓症の予防のために、二剤抗血小板療法DAPT(Dual Anti-platelet therapy)が推奨されている。J-CYPHER registryの報告では、このDAPTの中止がステント血栓症を増加させることが証明されている。従って、各国のガイドラインでも、ベアメタルステント留置後の場合は、1ヶ月のDAPT推奨であるが、DES留置後の場合は12ヶ月継続が推奨されている。しかしながら、PCIを受けた患者は、年間5~8%で外科的手術が必要となると報告されている。
このような抗血栓療法施行中の患者に、外科的・内視鏡的処置が必要になった場合の対処法としては、出血のリスクが高い場合は、抗血栓薬を中止し、ヘパリン置換などを行うことがガイドラインでも推奨されている。一方で、ワルファリン服用患者にヘパリン置換を行って手術を行うと、かえって出血性合併症の頻度が高くなるとの報告もあり、ヘパリン置換には、まだ明らかなエビデンスも得られていないのが現状ではある。しかしながら、ヘパリン置換には、現在他の代替治療もないのも事実である。
抗血栓療法を施行中の患者に内視鏡的・外科的治療が必要になった場合、抗血栓療法を行っている側は、その中止による血栓塞栓症のリスクが高いのか低いのか、また、手術をする側は、その処置による出血リスクが高いのか低いのかを判定し、両者の組み合わせにより、どのような処置を選択するかを判断することが大切と考えられる(図1)。当院でも、抗血栓療法を行う科と手術や内視鏡を行う科が協力して、ある程度標準化した対処法を構築することが、今後重要と思われる。
図1 抗血栓薬中止によるイベントリスクとと手術による出血リスクを考慮した対処法(案)