顔面神経麻痺の診断およびリハビリテーションについて
(医局研究会 2013.08)
リハビリテーション科 糸川 秀人
顔面神経麻痺には,中枢性と末梢性とがあります.中枢性は脳腫瘍や脳梗塞等の合併症として多くみられます.それに比し,末梢性顔面神経麻痺は,日常生活において,しばしば,見うけられます.主に,ベル麻痺(約70%)とハント症候群(10%)に分類されます.
ベル麻痺の原因は,単純ヘルペスウイルス-1型の再活性によるといわれています.(ウイルスとの因果関係が,あいまいという報告もあります.)また,ハント症候群は,水痘帯状疱疹ウイルスが原因といわれています.顔面神経が炎症により腫脹し,顔面神経管の中で圧迫され変性することによりひきおこされると考えられています.症状としては,片方の眼瞼が閉じにくい,歯磨きをしていたら片方の口角から唾液がもれた,片方の顔面の違和感に気付くなどで,ハント症候群には,さらに眩暈,耳鳴り,難聴が合併することがあります.
中枢性麻痺と末梢性麻痺の鑑別には,オデコにしわをよせて,両方のオデコに左右対称にしわよせができるときには中枢性麻痺,麻痺側のおでこにしかしわよせができないとき,できても弱い時は末梢性麻痺と診断します.
麻痺の程度を知るためには,次の10項目の顔面運動を行い採点します.
1. 顔の緊張度合い
2.おでこのしわよせ
3.軽い閉眼
4.完全閉眼
5.瞬目(瞬き)
6.鼻のシワ寄せ
7.両口角を外側へ広げ「イー」という.
8.口笛
9.頬を膨らませる
10.下口唇の可動(左右への)
(柳原法では,各項目において,正常にできるもの4点,減弱2点,消失0点として40点満点で評価をおこないます.)
神経の変性が,末梢部分まで,進行するのに,10日あまりかかるので,早期の受診が,必要とおもわれます.特に,耳鼻科への受診をお勧めします.生理的検査,Electroneurographyによる,分類では,これが,40%以上の患者は自然治癒するといわれており,10-40%の患者は4カ月後に随意運動が回復,10%以下の患者は,軸索再生まで4カ月程度必要とされています.
当院においてこれまで,耳鼻科に入院をして,リハビリテーションをおこなった症例は,
1999年3例 2000年21例 2001年 3例
2002年23例 2003年6例 2004年3例
2005年4例 2006年5例 2007年2例
2008年2例 2009年9例 2010年5例
2011年10例 2012年19例
です.これらの方々には,柳原法にてリハビリテーションの開始時に評価をおこない,顔面筋体操,顔面ストレッチ(具体的には,オデコのシワ寄せ,軽閉眼,完全閉眼,鼻作皺の練習,口角を引っ張りながらイーという練習,口笛と頬を膨らませる練習など),キセノン光線療法をおこなっています.
リハビリテーションは,おもに,過誤再生,病的共同運動の抑制,顔面筋の拘縮予防を目的としておこなっています.
リハビリテーションのプログラムとしては,発症後2週間にて,Electroneurographyにより,40%以上の軽症群(発症後3-6週で改善),10-40%の中間群(4カ月後に随意運動回復),10%以下の重症群(軸索再生まで4カ月程度必要)の評価を行い,その後,3カ月にて柳原法にて36点以上の症例は,リハビリテーションを終了し,36点未満の症例には,リハビリテーションを継続し,4ヶ月後に,再び柳原法にて評価し,36点以上の症例は,そこでリハビリテーションを終了し,36点未満の症例は,少なくとも1年間,病的な共同運動の抑制を目的としてリハビリテーションをおこなうこととしています.
最後に,歯磨きをしていて口角より唾液が垂れたら,また,顔面に違和感を感じたら,麻痺が完成しないうちに耳鼻科への早期受診および早期治療をお勧めします.