脳卒中治療ガイドライン2009以降の新しい知見
(医局会 2011.9.22 )
脳神経外科 小出 健一郎
1.脳梗塞のrt-PA投与開始時間を発症4.5時間までに延長:ECASS IIIのエビデンスによる。ただしこのstudyでは81歳以上、重症例(NIHSS25点以上)、糖尿病と脳卒中既往の合併例などが除外されている。このように、出血性合併症を出さないためには、適応の制限が出るのは仕方がないであろう。この投与時間の延長で、全脳梗塞症例の1-2%程度は適応症例が増え、治療の恩恵を受けるのは7%程度いるのではないかと予想される。
2.脳梗塞発症4.5-6時間の症例およびrt-PA非適応例の新しい局所線溶療法の進歩:MELT-Japan studyにより6時間以内の中大脳動脈閉塞には局所線溶療法の有効性が示されていたが、このstudyでは閉塞部でUK投与という方法であったため、再開通率が低かった。これに替わって、新しい治療システムとして開発されたMerciリトリーバー、Penumbraシステム、SolitaireFRは再開通率の非常に高い有効な治療法として期待されている。適応は、主幹動脈閉塞例に限られるため、血管内治療医がいて非侵襲的検査で24時間血管閉塞部位を診断できる施設でないと実施は困難であろう。当科でも、常時stroke MRIなどで診断ができない限りは、施行技術があっても、大変残念だが施行する予定はない。
3.心原性脳塞栓症予防の新しい治療薬の開発:心房細動患者に対する心原性脳塞栓の予防のための、直接トロンビン阻害剤が開発され、その一つであるダビガトラン(商品名:プラザキサ)が2011年3月から使用可能になりました(他にも数種類が認可待ち)。食物・薬物相互作用が少ない、定期的な血液検査によるモニタリングが不要、効果発現までが約2時間で半減期が12-17時間と短く導入や周術期管理が容易などの、利点があるものの反面、薬価が高い、血液検査による効果判定ができない、飲み忘れるで効果が低下が著しい、などの欠点も目立ちます。実際、プラザキサ投薬をうけ、約1ヶ月少々で異常な多発性の脳出血をきたし、重篤な後遺症を残した症例を当科で経験しています。出血合併症は同等程度ということでしたが、ワーファリン時代には経験したことがなかった例であり、市販後の厳格な調査及び安易な処方がされないことを望みます。現状では、プラザキサが、安価で1日1回服薬で済み、何より簡単に効果判定でき、予防効果が十分と考えられるワーファリンに優る薬には思えません。
4.脳出血やくも膜下出血に関しては、欧米では今も盛んにRCTが実施されていますが、なかなか新しいエビデンスがてでこないのが実情です。