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ニュース&トピックス

学術コーナー

炎症性腸疾患について

(医局研究会 2011.6)

消化器科 澤崎拓郎

炎症性腸疾患には特異的なものとして感染性腸炎や薬剤性腸炎・虚血性腸炎など様々な疾患があります。一方非特異的なものとしてクローン病や潰瘍性大腸炎に代表される疾患があります。今回はこの2疾患について簡単にお話をさせていただきます。
クローン病・潰瘍性大腸炎とも国の特定疾患に認定されている難治性疾患であり、発症についていまだにはっきりしていない部分の多い疾患です。食餌性抗原(脂肪・炭水化物の増加や薬剤など)や環境因子(ストレス含む)・遺伝的因子などが複雑に関係し、免疫異常を引き起こすことによって発症すると言われています。患者数は2009年の時点でクローン病が3万人超、潰瘍性大腸炎が12万人超でいまだに増加しつづけています。発症年齢は両疾患とも若年者にピークがありますが、クローン病では20歳前後に集中しているのに対し、潰瘍性大腸炎ではピークは20歳前後ですが50-60代でも比較的発症がみられます。
クローン病はあらゆる消化管(口から肛門まで)に病変が発生しうる疾患ですが、主に小腸・大腸に炎症を起こします。腹痛・下痢(下血)・発熱などの症状が主ですが、病変の主座が小腸の場合は体重減少や全身倦怠感といった症状を呈することもあります。強い炎症により腸管の癒着や狭窄、他臓器との瘻孔を来たすこともあり、消化管穿孔や腹腔内膿瘍で発見されることもあります。若い方で小腸炎を繰り返し起こしている方もこの疾患の可能性があります。治療には5-ASA製剤(アミノサリチル酸:ペンタサⓇ)やステロイド・免疫抑制剤のほか、経腸栄養なども行われます。最近、炎症の中心となっていると考えられているTNF-αというサイトカインを抑制することによってクローン病の炎症をおさえることができるという考え方より、抗TNF-α製剤が開発、治療に用いられています。現在日本では2種類の製剤が認可されており、クローン病治療の中心を担っています。
潰瘍性大腸炎は消化管のなかでも大腸に限局して炎症を起こし、主に直腸から連続して病変が存在するという特徴があります。病変の範囲により直腸炎型・左側結腸炎型・全大腸炎型と分類されることもあり、それぞれ治療法が若干異なります。潰瘍性大腸炎は発症後7-8年頃より癌化率が健常人と比較して急速に上昇すると言われており、定期的な内視鏡検査が重要と考えられています。治療にはクローン病同様5-ASA製剤やステロイド・免疫抑制剤のほか、血球成分除去療法(炎症の原因となる白血球の成分を透析のような仕組みで除去する治療法)なども用いられることがあります。また、最近では5-ASA製剤の新しい薬剤(アサコールⓇ)が認可され、これは従来の5-ASA製剤では不十分であった直腸炎型や左側結腸炎型に対しても十分に薬がいきわたる効果が期待されている薬剤です。
これら両疾患は通常の疾患とは異なり、治癒することが困難で寛解(病気が落ち着いた状態)を維持することが治療の目標となります。個々の疾患でいえば、クローン病では炎症による様々な腸管合併症による手術の回避・QOL(生活の質)の維持が必要で、潰瘍性大腸炎も病勢持続によるQOLの低下の回避や癌化の回避もしくは早期発見が重要となります。そのため患者さんとともに長期的展望にたった治療・経過観察が必要であると言っても過言ではありません。