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ニュース&トピックス

学術コーナー

傍腫瘍性神経症候群  特にTrousseau syndromeと抗NMDA受容体脳炎に関して

(医局研究会 2010. 11)

神経内科 柳瀬大亮

傍腫瘍性神経症候群とは、腫瘍が神経組織に直接浸潤や転移せず、かつ腫瘍と密接に関連する機序が想定されている神経障害の一群です。その多くは,腫瘍細胞が正常神経組織と共通性のある抗原を発現するため抗腫瘍免疫が神経組織に対して交叉反応し、神経障害を生じると考えられており、自己免疫的機序が想定されています。実際に様々な関連抗腫瘍神経抗体が見いだされています。それらの神経障害は腫瘍発見よりもかなり先立つこともしばしばであり、本病態を疑った場合は速やかに腫瘍検索が必要です。

当院でも今期、傍腫瘍性神経症候群の一型であるTrousseau syndromeと抗NMDA受容体脳炎を経験しましたので概要を述べます。

自己免疫的機序ではありませんが、腫瘍に伴う血液凝固亢進により脳卒中などの血栓塞栓症を生じる病態を、最初に指摘した医師の名をとってTrousseau syndrome(トルーソー症候群)といいます。様々な腫瘍に血液凝固亢進を伴うことが知られています。また逆に原因不明の血液凝固亢進をみたときは、腫瘍が潜在している可能性を疑って検索を進める必要があります。

抗NMDA(n-methyl-D-asparate)受容体脳炎は、しばしば統合失調症様の精神症状で初発し、若年女性に好発する非常に重篤な経過を辿ることが多い脳炎です。その多くで卵巣奇形腫を合併しており、卵巣奇形腫内の神経組織の表面抗原に対して産生された抗体が交叉反応で中枢神経系を障害する機序が考えられています。2007年にペンシルバニア大学のDalmauらにより、その中核をなす抗体が抗NMDA受容体抗体であることが明らかにされました。治療としては卵巣奇形腫の早期切除、血液浄化療法・ステロイド投与・免疫グロブリン静注療法などの免疫療法を行います。統合失調症としては非典型的な若年女性の精神症状をみた場合は、神経内科・精神科・婦人科等が協力して本疾患の可能性を念頭において検索治療を進めていく必要があります。