嚥下評価の現況 -特にスクリーニングの効率について-
(医局研究会 2009.8.18)
耳鼻咽喉科 西村俊郎、辻亮、岡部陽三
【目的】
社会の高齢化にともない、潜在的な嚥下障害が顕在化して肺炎を罹患し、入院する高齢者は増加傾向にあるも のと推測される。このような症例に対して速やかに、かつ正確に嚥下状態を評価して、効率よく嚥下リハビリを行うことは入院期間の短縮にも有用であると考え られる。実際の臨床場面では検査のための患者の移動が困難であったり、認知症のために理解と協力が得られないことも多い。嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査は 必ずしも実施できない場合があるため、簡易検査でのスクリーニングの効率を検討した。
【方法】
当科において2006年4月から2009年3月までに嚥下 評価を依頼された337例を対象とした。当科では簡易検査として反復唾液飲みテスト(30秒間に空嚥下ができる回数、3回以上が正常)と3ml水のみテス ト(3ccの水を3回反復して嚥下、嚥下運動がおきてムセや呼吸促迫がなければ正常)を、嚥下内視鏡検査と共に施行しており、簡易検査の結果を評価後最低 3ヶ月以上経過した時点の(死亡の場合はその時点)嚥下の状態と対比させた。
【結果】
両方の簡易検査が正常なものをA群(97例)、反復唾液飲 みテストのみ不良をB群(85例)、改訂水飲みテストのみ不良をC群(18例)、両方が不良なものをD群(128例)とした。将来的に経口摂取が可能に なった割合は順に86%、69%、64%、31%であった。A,B群を嚥下可能と判定すると将来的に嚥下が可能になる患者を選別することに関して、感度 0.78、特異度0.71 、陽性的中度0.78、陰性的中度0.64であった。
【総括】
簡易検査のみでは、必ずしも正確に将来の嚥下状態を予測で きないものの、簡便に誰にでも評価可能な点が優れていると思われた。不顕性誤嚥の検出には嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査の併用が必要である。簡易スクリー ニング検査は、いつでもどこでも施行可能で、特殊な検査器具を要しないことから、在宅介護を担当するコメディカルにも有用と思われ、高齢者の変動する嚥下状態の日々の把握に有用と考えられた。