当院における褥瘡対策の経過と効果
(地域医療連携講演会 2009.6.12)
褥瘡対策委員長 長谷田泰男
当院では平成14年8月より褥瘡対策に関する診療計画書をはじめとする褥瘡対策を開始しました。それ以前から、形成外科・皮膚科では積極的に褥瘡の診察・治療、エアマットレスの購入などを行っていましたが、軽症例は看護師が独自で処置を行い、発赤段階では褥瘡として認識されることはほとんどなく、エアマットレスも主として褥瘡を有する患者さんに使用されていました。また職員に対する組織的な勉強会は無く、褥瘡の部位や深さ、有病率、発生率などの状況も把握できていませんでした。
褥瘡対策を開始して以来、褥瘡の発生状況を毎月院内LAN (Local Area Network)にて全職員に報告して啓発を図かり、定期的に病院全体の講演会や各病棟に配置した褥瘡リンクナースの勉強会を開催してきました。また体圧分散マットレスの充実を図りました。当初は一層性の筒型エアマットレスのみでしたが、5年間で高機能型エアマットレスを70台、ウレタンフォームマットレスを110台配置しました。
以来7年余が経過しましたので、当院が行ってきた褥瘡対策の効果や問題点などを検討するために、褥瘡発生率・有病率の推移、褥瘡部位、深度、褥瘡を有する患者さんの入院原因疾患、褥瘡の経過などについて調査しました。
結果
1.褥瘡を有する患者数の推移:年間の患者数は550人から400人前後に減少し、新規院内発生数も200人から130人に減少しました。持ち込み例は毎年100人前後でしたが、昨年は120人と増加しました。
2.有病率と発生率:有病率は5%から3.5%に、発生率は1%超えから1%未満に減少しました。 有病率は毎月24日の褥瘡保有患者数をその日の入院数で割った数、発生率は当月に院内で新規に褥瘡を形成した患者数を当月の総入院数で割った数としました。
3.褥瘡の部位:過去3年間の新規院内発生と持ち込み褥瘡の部位を比較しました。
院内発生では60%が殿部・仙骨部に発生し、次いで足・踵部、大腿大転子部の順でした。
持ち込み褥瘡も殿部・仙骨部に最も多く、2位は大転子部、次いで足・踵部の順でした。
また持ち込み例は殿部・仙骨部以外の占める割合が高く、多発例が多くみられました。
4.褥瘡の深さ:過去3年間の新規褥瘡の深さを、院内発生と持ち込み褥瘡で比較しました。
院内発生では90%が発赤・真皮レベルまでの浅い褥瘡でしたが、持ち込み褥瘡は浅い褥瘡は65%で、深い褥瘡が多いことが分かりました。
5.入院原因疾患:院内発生では悪性腫瘍が約40%を占め、骨・脊椎・外傷、呼吸器疾患、脳血管・神経障害の順でした。しかし悪性腫瘍の割合は減少傾向しつつありました。
持ち込み褥瘡では呼吸器・肺炎が第一位で、悪性腫瘍、消化器疾患、脳血管・神経障害の順で多く、悪性腫瘍の割合が増加傾向にありました。
6.褥瘡の経過:褥瘡治癒数、未治癒退院(死亡含む)数の推移を表に示しました。
毎年100人余が治癒し、100人余が褥瘡を持ったまま退院していました。
平成20年の新規発生褥瘡の予後調査では院内発生例は44%が入院中に治癒しているのに対して、持ち込み褥瘡では入院中に治癒した割合は23%でした。全体として37%が入院中に治癒、26%が未治癒のまま死亡退院、18%が未治癒で自宅へ、13%が未治癒のまま他の病院へ転院していました。
7.持ち込み褥瘡患者が当院へ入院する直前に生活していた場所についても調査しました。75%が自宅、19%が施設からの持ち込みでした。他の場所で発生して、褥瘡を有した状態で自宅や施設で生活していた例も少数ですが含まれています。
考察:平成14年に褥瘡対策未実施減算が通知されて以来、全国的に褥瘡対策が行われるようになりました。褥瘡学会が行った全国調査や他施設の報告では、褥瘡対策により褥瘡の発生率・有病率の低下と、深い褥瘡が減少して、発赤や真皮レベルの浅い褥瘡が増加するなど、褥瘡対策が効果的であったとされています。当院でも褥瘡有病率・発生率ともに低下しました。褥瘡の深さについては院内発生・持ち込み褥瘡とも全国平均より圧倒的に浅い褥瘡が多く、当院でも褥瘡対策が効果的であったと言えます。
院内発生と持ち込み褥瘡について比較検討してみると、持ち込み褥瘡は増加傾向にあり、発生部位も殿部・仙骨部以外の占める割合が高いこと、多発例や深い褥瘡が多く入院中の治癒率も低いことなどが明らかとなりました。入院前に生活していた場所は75%が自宅であり、核家族化、高齢化社会、在宅医療推進のひずみなどによる介護力不足を反映していると思われました。医療の各方面で地域連携が行われるようになってきましたが、褥瘡の予防、治療についても病院が在宅医療の中で積極的に役割を果たしていく必要があると考えられました。