厚生連高岡病院における鼓膜形成術(湯浅法)の評価
(2009)
耳鼻咽喉科
過去3年間の厚生連高岡病院耳鼻科における耳科手術について検討してみました。
平成17年1月から平成19年12月までの3年間に耳科手術は145例,150耳施行されていました.男性80耳,女性70耳.平均年齢45歳でした。
耳科手術受けた150症例を病名ごとに集計すると以下の表のとおりとなりました。
慢性中耳炎 | 66 |
真珠腫性中耳炎 | 64 |
癒着性中耳炎 | 3 |
耳硬化症 | 3 |
中耳奇形 | 1 |
顔面神経麻痺 | 4 |
外耳道真珠腫 | 1 |
外耳道癌 | 1 |
その他 | 1 |
慢性中耳炎と真珠腫性中耳炎の症例がほとんどを占めることが分かります。
耳科手術症例150例に対して行われた術式は以下の表のとおりです。
鼓室形成術 | 80 |
鼓膜形成術 | 50 |
中耳根本術 | 5 |
乳突洞削開術 | 3 |
あぶみ骨手術 | 2 |
顔面神経減荷術 | 4 |
その他 | 6 |
選択された術式としては聴力改善を目的とした鼓室形成術と鼓膜形成術がほとんどです。
慢性中耳炎だけについてみると、選択された術式は以下のとおりです
鼓室形成術 | 16 |
Ⅰ型 | 13 |
Ⅲ型変法 | 2 |
Ⅳ型変法 | 1 |
鼓膜形成術 |
50 |
真珠腫性中耳炎以外の慢性中耳炎に対しては、ほとんどが鼓膜形成術を選択しています。
鼓膜形成術は鼓室形成術に比べて入院期間が短く、局所麻酔でも行えるという利点があります。
鼓膜形成術の結果
聴力改善(改善が5dB以上) | 29 |
パッチテスト結果との差が5dB以内 | 20 |
パッチテスト結果の記載なし | 2 |
聴力不変(改善は5dB未満,-5dBより大) | 9 |
聴力悪化(改善は-5dB以下) | 1 |
再穿孔 | 6 |
滲出性中耳炎 | 1 |
Follow upなし | 4 |
1.聴力改善は63%(29/46)でしたが,パッチテスト結果と同程度まで改善したのは43%(20/46)でした.
2.パッチテスト結果まで改善しなかったのは経過観察を4~8週間であったため軟部組織が希薄化しておらず「鼓膜が重い」状態(mass effect)にあったものと思われます.経過観察期間を長くするとさらに聴力が改善する可能性があります.
3.再穿孔率はスリットやピン・ホールを含めて13%(6/46)でした.
4.聴力悪化1耳,滲出性中耳炎1耳を加えると,17%(8/46)は失敗と評価されます
まとめ
1.当科で施行した耳科手術は3年間で150耳ありました.
2.耳科手術の33%(50/150)は鼓膜形成術でした.
3.真珠腫性中耳炎や癒着性中耳炎でない,鼓膜の穿孔が中等度以下,中央にあり, 鼓室内に肉芽等を疑う軟部陰影がない慢性中耳炎は鼓膜形成術の適応となります.
4.鼓膜形成術施行例での聴力改善は63%でした.但し,パッチテスト結果と同程度までの聴力改善は43%でした(follow upを長くする必要があります).
5.当科で施行した鼓膜形成術の再穿孔は13%でした.
今後さらなる聴力の改善を目指して手術症例を増やしていきたいと思います。