いかにして血管内治療症例を増やし、末梢動脈疾患(PAD)患者を治療するか? (PAD診療連携、チーム医療について)
(院内学術講演会 2009.2.21)
循環器内科 山本 正和
平成21年2月20日に関西労災病院循環器科飯田 修先生に来院していただき、血管内治療(EVT)のミニライブと講演をしていただきました。関西労災病院は、現在EVTを国内で最も多く施行している施設であり、飯田 修先生はその治療チームのリーダーとして活躍しておられます。今年の日本循環器学会総会においてもEVTライブの術者になっておられ、またEVTに関する論文も数多く発表していらっしゃいます。
講演は、「いかにして血管内治療症例を増やし、末梢動脈疾患(PAD)患者を治療するか?」(PAD診療連携、チーム医療について)という演題で行われました。以下にその要旨を記します。
PADはその症状が多岐にわたるため、単純に循環器科や血管外科を受診する症例が少なく、そのためにEVT施行数を増やせない要因のひとつになっています。PAD患者さんの受診状況を調べると間欠性跛行症例は整形外科、重症虚血肢症例は皮膚科、形成外科、透析内科を受診することが多く、病変別では腸骨動脈病変は整形外科、大腿・膝窩動脈病変は糖尿病内科、透析内科を受診することが多いことが分かりました。また一般内科医への受診は全体の51%、透析医12%、整形外科医26%、皮膚科医8%、形成外科医2%であり、直接循環器科を受診する症例は28%のみでした。すなわち72%の患者さんは他科からの紹介により循環器科を受診しています。
一方、医療者側に関する問題としてPAD症例をどのように治療すべきか医師自身が十分に理解していなことがもうひとつの重要な点です。日本では、歩けないならリハビリを、傷があり治らないなら足指など足の先の切断を、それでも、だめなら膝の下で切断をするなどという治療が安易に行われています。循環器科医や血管外科医がPADの治療を行うことによって救肢することができ、しかもEVTでほとんどの症例が治療可能になってきていることを他の診療科の医師に理解してもらえるように、われわれ循環器科医が啓蒙すべきではないかと思います。
最近のEVTでは、腹部大動脈閉塞も治療が可能で、ナイチノールステントにより治療成績が良くなってきたこと、足の指先まで治療が可能になってきていることから関西労災病院では2000年ではEVT症例が50例にも満たなかったものが2007年には600例を越えています。腸骨動脈の長い閉塞病変に対するEVTの初期成功率は80~85%であり、大動脈・腸骨動脈の病変に対するステントの遠隔期成績(8年の一次開存率が70%を超えている)は良好です。そのため症例によってはTASC分類で外科治療が推奨されているTASC Dの患者さんも治療し、そのEVT遠隔期治療成績は5年で約90%の成功をおさめています。しかし、この領域では致死的合併症として動脈の破裂に注意が必要であり、血管外科との協力が必須であり、また末梢への塞栓予防が重要です。
大腿・膝窩動脈領域では、ナイチノールステントの2次開存率は4年間で86%と良好な成績を示しています。病変長が長く閉塞病変が多い大腿・膝窩動脈病変は1.5mmJのガイドワイヤーを使用したナックルワイヤーテクニック、両方向性アプローチやカルトテクニックを用いて血行再建することがほとんどの症例で可能であり、ナイチノールステントを植え込むことによって良好な治療成績が得られています。
膝下病変は、バルーン単独による治療は、バイパス術と比較して遠隔期開存は極めて悪く、EVTは重症虚血肢症例のみに限られています。また、EVTに際しては、膝下動脈の血流分布(アンギオサム)を考慮して治療する必要があります。しかし、この領域は、冠インターベンションで培った循環器科医の技術をおおいに発揮することができ、循環器科が今後の治療に大きく貢献できるものと期待されます。
以上のように、PAD治療はまだ多くの未解決な問題がある一方で、患者さんの予後を改善するためにEVTによる救肢によって患者さんを歩行できるようにすることは極めて大切です。そしてEVT施行例を増やすためには、多くの他科との協力が重要であり、その成績を良くするためには多くの科にわたる集学的治療が必須であると考えられます。