耳鼻咽喉科 宮川 祐介
今回は3つのトピックを紹介させていただきます。1つ目は、好酸球性副鼻腔炎の診断・治療について。2つ目は、スギ・ダニに対する舌下免疫療法が学童期への適応拡大したこと。3つ目は、重症スギ花粉症に対しての抗IgE抗体療法が当院でも使用できるようになったことです。
(1)好酸球性副鼻腔炎は2001年に春名教授が難治性の副鼻腔炎の鼻茸・粘膜をしらべたところ好酸球の浸潤が強いものが多数みられるとの報告により、副鼻腔炎の病態の一つが判明することになりました。2011年以降福井大学の藤枝教授のJESREC studyにより好酸球性副鼻腔炎の臨床診断基準が確立しました。気管支喘息などと関連し、難治性で長期的な管理が必要な副鼻腔炎と言われています。当科では右のような治療方針に沿って診療を行っております。
現在副鼻腔手術は一般的に鼻内視鏡下で行います。鼻の中は副鼻腔さらに蜂巣(cell)と言われる細かな部屋がある状態です。その部屋が閉鎖または入口部が狭いと細菌や真菌がたまって粘膜の炎症を来し、膿性鼻汁・鼻閉・頭痛・嗅覚障害などの症状がでます。手術の目的としては細かな部屋を大きな一つの大部屋にするイメージで、それによって排出口拡大、さらに含気化をうながすことになり炎症が鎮静化することになります。さらにステロイド点鼻や鼻洗浄などの局所治療の有効性が格段に高まります。
当科では2020年度58例の鼻内視鏡下鼻副鼻腔手術を施行しました。2018年度23例、2019年度34例と徐々に症例数も多くなっています。ご紹介いただいている近隣の医療機関の先生方には重ねて御礼申し上げます。58例全例で重大な副損傷なく患者さんのQOLアップにつながっています。副鼻腔炎に対する治療の他、当院では構造の改善・鼻炎症状の改善のために、鼻中隔矯正術・粘膜下下甲介切除術、後鼻神経切除術も積極的に行っています。基本的には全例でナビゲーションシステムを使用し、患者さんの安全性の確保・手術精度を高めるように心がけています。
さらに気管支喘息やアトピー性皮膚炎ですでに使用されていたIL-4/13をターゲットにした生物学的製剤であるデュピルマブが、2020年3月鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎においても適応となり、手術後の再発症例や全身ステロイドで改善の乏しい難治性の副鼻腔炎に対する新たな治療薬の選択肢となりました。高額な薬剤で、適応条件もあるため、投与の判断は慎重に決定しています。(2)2014年秋にシダトレン、2015年冬にミティキュアが発売され、スギ花粉症やダニによるアレルギー性鼻炎の根治を期待できる舌下免疫療法が治療の選択肢となりました。皮下免疫療法に比べると、注射がなく苦痛が少ない、自宅でできる、アナフィラキシーの頻度が極めて少ないなど利点があります。毎日の投与が必要で、3年を一つの目標に治療継続必要です。2018年からは5歳以上のお子さんにも投与可能となり、アレルギーの克服により人生の重要な時期の勉強・運動・睡眠の質がよくなる可能性があります。非常にまれですがアナフィラキシー症状は命にかかわることがありますので、救急・小児科対応が可能な当院で投与を開始し、アナフィラキシーのリスクが低くなり、口内の掻痒感・浮腫などの副作用が安定した状態で開業医の先生に紹介するのが望ましいと考えています。症状がひどい方や薬の効果が乏しくなってきたなどアレルギー性鼻炎でお困りの方は一度当科にご相談ください。
(3)重症のスギ花粉症でお困りの方は、スギ花粉と結合した特異的な抗体をブロックする抗IgE抗体療法が有効です。2週間もしくは4週間に1回の皮下注射を行うことによって、鼻水やくしゃみの症状が改善されます。スギ花粉が飛散している時期に限定して行いますので、富山県では12月末から5月頃までの投与が望ましいとされています。抗IgE抗体療法は、花粉症すべての方に適応があるわけではありませんので、鼻水が出て受験勉強に集中できない、春先のゴルフで鼻水やくしゃみが出て困っているといった方は、早めに当科にご相談ください。