第29回看護の日「最優秀賞」受賞!

富山県看護協会 第29回看護の日事業 「看護職員等からの体験談」
応募146件の中から、当院の看護師 金子真観さんの体験談が「最優秀賞」に選ばれました。是非ご覧ください。第29回「看護の日」看護フェスティバル(グランドプラザ)で表彰され、体験談を朗読しました。
最愛の人の最期
厚生連高岡病院 金子 真観
「今後どうするか、お考えください。」
脳幹出血で入院したA氏の奥さんに主治医が伝えた。「主人は延命治療を望んではいなかったので、何もせずに看取りたい気持ちもありますが」。奥さんは涙ぐみながら話した。新人看護師として脳神経外科に勤め、約半年。初めての光景にドラマのワンシーンを見ているようだった。
病状説明が終わり病室へ戻った時、奥さんはじっとA氏を見つめていた。どのような思いでA氏を見つめているのか、考えるだけでも息が詰まる思いだった。看護師としてどう言葉をかければよいか考えたが、ありきたりな言葉しか出てこなかった。そんな私に奥さんは「主人は元気だった時、笑いながら『俺は延命治療はいらんぞ』と言っていました。知識がないので、どこまでが延命治療になるか分からなかったけれど、まさか自分がこんな選択をするなんて。意識がなくても私としては生きていてほしい」と目頭を押さえながら、心のうちを話した。その日は「主人がどうしたいのか、落ち着いて考えることができましたが、もう少し時間をください」と帰宅した。
次の日から私たちは、奥さんが現状と向き合った選択が出来るよう、日々変わる思いを傾聴し、求められれば情報提供を行ったりした。 病状説明から5日後、何もせずに看取る方針となった。苦渋の決断であったにも関わらず、奥さんは真っすぐな目をしていた。その後は、悔いなく2人の時間が送れるよう、「自分たちが奥さんの立場だったら」と看護師間でカンファレンスを行った。奥さんの希望があれば一緒にケアを行うこともあり、夫とともに過ごす日々に笑顔も増えていった。
そんな日も長く続かず、徐々に状態は悪化し、A氏は静かに息をひきとった。奥さんは泣いていたが、穏やかに「おつかれさま」と夫を抱きしめた。そして私たちに「たくさん悩みましたが、この選択で主人も私も悔いはありません。ありがとうございました」と深々とお辞儀をした。 これが初めての看取りだった。看護技術を身につけることばかりに必死だった新人の私は、看護の基盤は患者だけでなく、その家族を含めて「相手を想う気持ち」が前提であることに、あらためて気付かされた。奥さんの「ありがとう」の言葉が看護師としての私を成長させてくれた。