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知っていて得する栄養管理の知識        (医局研究会抄録 2009.7.21)         

                                   外科  大村 健二 

 

 医療の質を向上させるために適切な栄養管理は必須である。しかし、欧米諸国と比較して我が国の医学教育では栄養学が軽視されてきた。低栄養にある症例に、その改善を行わずに疾病の治療を行うことは、空腹のままで敵と戦えと命じているようなものである。高齢者では、低栄養がもたらす悪影響は一層深刻である。高齢化社会が現実となり、臨床医には正しい栄養に関する知識が一層求められる。
 高齢者は、一時的な過栄養や低栄養がもたらす体重の変化から回復する能力に乏しい。加齢による骨格筋量の減少は、この現象の一因に挙げられる。骨格筋量の減少はADLの低下や疾病・外傷からの回復力低下ももたらすため、高齢者では特に避けるべきである。ヒトを含めた動物は、病的状態では体内に蓄積された栄養素で回復を図るため、放置すれば骨格筋の委縮が急速に進行する。重症感染症に罹患すると、1日あたりおよそ100gの筋肉が分解されるという報告もある。
 入院生活で進行する骨格筋量の減少には、不必要な安静も大きく関与している。ほとんどの患者は、「入院」「養生」「体力をつける」という語句から症状安静を連想する。適切な栄養管理を行いながらリハビリを含めた骨格筋への負荷を続けることが、寝たきり老人を作らないために重要である。医療経済学で用いられる手法に時間得失法がある。これは、不完全な健康状態での生存期間を完全な健康状態で同等の価値を得ることができる生存期間(QALYs)に換算する方法である。疾病が治癒しても、その後の人生の質が低下すれば当該医療行為の価値は低いと判断される。肉体的健全性や社会的健全性は、QOLの重要な構成要素である。骨格筋の減少は、その双方を損ねるのである。
 静脈栄養に用いる輸液製剤は、すべて薬品である。それゆえに添付文書があり、そのなかには使用上の注意が記載されている。しかし、栄養投与量の安全域は一般の薬品の投与量と比較して極めて狭い。そのため、用法・用量に従うと栄養素、とりわけグルコースの過剰投与に陥る可能性が極めて高い。FDG-PETの画像をみてもわかるように、燃料にグルコースを好んで使用する臓器は多くない。安静時の骨格筋や心筋は脂肪酸を燃料に用いる。
 食物として摂取された中性脂肪(TG)は消化を受けて小腸上皮に取り込まれた後、再びTGに合成されてキロミクロンとなる。次いで胸管を経て静脈角から左腕頭静脈(無名静脈)に入る。一方、緩徐な速度で中心静脈に投与された脂肪乳剤中の脂肪粒子もただちにアポ蛋白と結合して偽キロミクロンとなる。したがってTGは、脂肪乳剤として投与しても経口摂取した場合と同様の動態を示すのである。脂肪乳剤を静脈内投与することが非生理的と考え、その使用を控えているのは我が国の臨床医のみである。
 特殊病態用の輸液製剤を使用する場合にも注意が必要である。腎不全用高カロリー輸液基本液は、腎不全で高カリウム血症、高リン血症が問題となるためこれらを除いてある。また、腎臓の主な熱源はグルコースであること、腎不全では水分制限が必要であることより高張グルコース液を基礎に作成されている。しかし、入院患者が必要とするグルコース量は1日200g程度であるため、1袋をすべて投与すると過剰気味となる。なお、2袋全量の投与は論外である。
 腎不全用アミノ酸製剤にも問題は多い。その組成は生体内でのタンパク合成に有利なものではない。日本腎臓学会から出されている慢性腎臓病に対する食事療法基準2007版では、透析療法導入直前でも0.6~0.8g/日の良質な蛋白質の摂取が勧められている。腎不全用アミノ酸製剤を用法・用量にしたがって1日2袋使用した場合、この基準から大きく逸脱することになる。
 さらに大きな問題は、安定した血液透析を週3回受けている患者に何らかの理由でTPNを施行する場合、総合アミノ酸製剤を使用できないことである。我が国では、総合アミノ酸を含むすべての輸液の禁忌に重篤な腎障害のある患者が挙げられているからである。しかし日本腎臓学会では、安定した血液透析を週3回受けている患者には健常成人より多い1日1.0~1.2g/kgの良質な蛋白摂取を勧めている。血液透析を1回受けると、回路中に10~12gのアミノ酸が失われる。また、回路の内面に蛋白質が吸着する。したがって、十分量の良質な蛋白質を十分量の熱源とともに摂取することが推奨されるのである。アミノ酸製剤の使用上の注意は30年以上前に作成されたものであり、それはPPN製剤やTPN製剤に引き継がれていった。薬品の禁忌事項については、追加は容易であるが削除は事実上不可能である。支払基金の関係者の方々に、血液透析という人工臓器による代償を受けている患者は、重篤な腎障害にはないと拡大解釈していただくしかない。
 腎不全用高カロリー輸液基本液がリンを含んでいないことはあまり知られていない。腎不全では腎のリン排泄能が低下し、高リン血症が問題となることは事実である。しかし、腎不全用高カロリー輸液基本液を用いた臨床試験では121 症中 32 例にリン製剤の添加が行われた。なお、血清リン値が低下する恐れがあると周知されての試験であったため、低リン血症の症状を呈した症例は報告されていない。低リン血症はrefeeding症候群の構成要素の一つであり、refeeding症候群によって死亡する最大の要因でもある。しかし近年、医原性の低リン血症にしばしば遭遇する。その背景には、血液透析を受けている腎不全があることがほとんどである。
 典型的な輸液処方例は次のようなものである。腎不全用の高カロリー基本液を2袋、腎不全用のアミノ酸製剤を2袋、脂肪乳剤は併用しない。このような輸液処方では、1日500gのグルコースが投与される。当該症例に侵襲が加わっていない場合、許容できるグルコース投与速度の上限は5mg/kg/分である。したがって、500gのグルコースを投与できる体重は最低で70キロとなる。さらに、何らかの侵襲が加わっていればグルコースの許容量は2割減となる。このようなグルコース過剰投与状態では高血糖を呈する確率が高く、インスリンが使用される。その結果系解糖系が亢進し、大量のピルビン酸が産生され、その過程で、大量のリンが消費されるのである。
 リンが消費される一方で、輸液にはリンが含まれていないため血清のリン濃度は低下する。また、インスリンの投与で解糖系が賦活化されているため、解糖系と対流にある2,3-DPGの赤血球内濃度が低下する。2,3-DPG濃度の低下はヘモグロビンの酸素解離曲線を左方に移動させ、末梢組織は低酸素状態に陥る。その結果、TCA回路で産生された電子伝達体の処理は障害され、TCA回路は機能不全に陥る。大量に作られ続けるピルビン酸はアセチルCoAに代謝されても処理を受けないため、乳酸が過剰に産生されて乳酸アシドーシスを呈する。また、TCA回路の機能不全は心筋細胞内でのATP産生も障害するため、心不全に陥って早晩死に至る。
 なお脂肪乳剤には、リン脂質の形で1袋あたり4mmol程度のリンが含まれている。さらに、脂肪乳剤の熱量を計算してグルコースの投与量が減じられる。そのため、脂肪乳剤を使用すると低リン血症の危険性は著しく低下する。
 このように、低リン血症は代謝マップ上、ビタミンB1欠乏に類似した機序で乳酸アシドーシスとATP産生障害をきたす。しかし、大半の症例が血液透析を受けている重症症例であるため、多臓器不全のなかに含まれる心不全と解釈されている可能性がある。臨床医は血清電解質のなかでナトリウム、カリウム、クロール、カルシウムまでには注意をはらうものの、リンの値には注目しない傾向にある。また、血清リン値が基準値の下限多少下回っても低リン血症の症状は発現しない。基準値の下限の1/2以下になると前述した機序で乳酸アシドーシスとATPの産生障害をきたす。進行する乳酸アシドーシスに遭遇したら、まずビタミンB1が投与されているかと血清リン濃度を確認すべきである。器質的疾患の有無を確認する緊急CT検査などは、その後にゆっくりオーダーすれば良いのである。
 栄養管理を必要とするすべての症例に適切な栄養管理計画を提言する専門家集団が栄養サポートチーム(NST)である。疾病の治療が高度化する一方である昨今、NSTに栄養管理を依頼すれば主治医は疾病の治療に専念できる。また、医療機関としても専門的な知識を有する職員の能力を遺憾なく発揮できるメリットがある。さらに、職種間で「縦割り的な色合い」が濃かった医療機関内に多職種間の横のつながりができる。医師、歯科口腔外科医師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、言語聴覚士、さらには理学療法士や事務まで「巻き込んだ」NSTは、最強の医療チームともいえる。