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肺血栓塞栓症(PTE)裁判の判決文から見えること
                 -患者救済と法的防御の視点から- 
                            
     (医局研究会抄録2009.5.27)         
                                             
                            
                                       整形外科 鳥畠康充 

 

【目的】
 外科診療において肺血栓塞栓症(PTE)は、「一定の確率で生じる合併症」であり、どれだけ予防策を駆使しても確立が低下するだけで発生を根絶できるわけではない。本研究の目的は、過去の裁判を検討することで医療者が問われる法的問題点を明確化し今後の患者救済に役立てることである。

【方法】
 1981年から2009年の期間にPTEで争われた裁判事例のうち判決全文を入手できた17判決(①S56横浜地裁、②S58東京高裁、③S61東京高裁、④H3東京高裁、⑤H7東京地裁、⑥H9東京地裁、⑦H10金沢地裁、⑧H12浦和地裁、⑨H14東京高裁、⑩H14千葉地裁、⑪H14岡山地裁、⑫H15新潟地裁、⑬H16津地裁、⑭H16東京地裁、⑮H18福岡高裁、⑯H18東京地裁、⑰H19京都地裁)を対象とし、年代による判決の変遷や何が争点となったかを検討した。

【結果】
 判決⑦以前は不明死に対し医療者側がPTEを主張する傾向がみられた。これはPTEであれば医療者は無責と判断されたためである。しかし判決⑦で期待権侵害、判決⑧で医師の過失および死亡との因果関係が認定されてからは、PTEの発症や対処法において医療者の予見・注意義務違反が争われていた。争点に挙げられた項目は、診断が11判決、治療が11判決、予防が6判決であった。判決を左右した重要争点は、症状・心電図・ガス分析・心エコーなど一次検査の未実施や診断結果(②、④、⑦、⑧、⑩、⑭、⑮)、診断・治療・転院の遅れ(④、⑥、⑦、⑧、⑨、⑭、⑮、⑯)、動脈造影後の圧迫処置(⑨、⑫)などであったが、特筆すべき点は、治療におけるヘパリンの未使用や投与開始の遅れ(④、⑥、⑦、⑧、⑨、⑪、⑭)が極めて重要な争点となっていたこと、最近の判決(⑯、⑰)でガイドラインに基づく予防法が言及されはじめたこと、の2点である。

【結語】
 患者救済と法的防御のため、外科医はPTEに対して予防法同様、診断と治療に関して知識と技術を身につける必要がある。

【要約】
 肺血栓塞栓症(PTE)に関する過去17裁判の判決文を検討したところ、1)H10-12頃から診断や治療における医療者の過失を争点とする判例が増加してきたこと、2)治療におけるヘパリンの未使用や投与開始の遅れが重要な争点となっていること、3)予防は今後の重要な争点となる可能性が高いこと、が明らかとなった。患者救済と法的防御のため、外科医は予防法同様、診断と治療に関して知識と技術を身につける必要がある。