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ニュース&トピックス

学術コーナー

アルコールに関連した神経障害

(医局研究会 2013.07)

神経内科 古川 裕

アルコール中毒は常習的アルコール多飲者に見られる症状で、アルコールまたは随伴する栄養障害に基づく症状と、アルコールの中断に伴う禁断症状に大別されます。すなわち前者としてはアルコールの大量摂取による急性中毒、Wernicke脳症、Marchiafava-Bignami症候群、大脳萎縮症、小脳萎縮症、橋中心髄鞘崩壊症、視神経萎縮症、脊髄症、多発末梢神経障害、筋障害など種々の病態が知られており、後者としては振戦、幻覚、痙攣、振戦せん妄などが知られています。個々の病態の詳細については成書を参考にしていただきたいと思いますが、これらのうちWernicke脳症および痙攣発作はいずれも臨床上重要と思いますので少し詳細を述べたいと思います。
Wernicke脳症は意識障害、外眼筋麻痺、小脳失調を3徴とするビタミンB1欠乏による急性脳症ですが、これらの3徴が揃う症例は20%未満とされています。従って慢性アルコール中毒を含めた慢性低栄養状態や偏食のある人がこれらの徴候のいずれかを呈した場合にはまずWernicke脳症を疑う必要があります。治療の原則は早期のビタミンB1大量投与ですが、具体的な投与量・回数・経路・継続期間に有効なエビデンスはありません。しかしチアミンとして1日あたり50-100mgの経静脈投与で治療された症例のうち、完全回復した症例は16%程度とされていますので、治療としては超大量のビタミンB1投与(まずはチアミンとして1回500mg静注 1日3回 3日間)が推奨されています。繰り返しになりますが慢性低栄養のある人が、ぼーっとする、物が二重に見える、ふらつくなど上記3徴を思わせる症状を訴える際にはまずはWernicke脳症を考えて、ビタミンB1大量投与を行うのがよいと思います。この際ビタミンB1血中濃度を測定しておくと診断の参考になりますが、これが基準値範囲内でもWernicke脳症が否定できる訳ではない点には注意が必要です。
痙攣発作はアルコールに特異的ではありませんが、頻度の高い救急病態です。治療手順については日本神経学会からてんかん治療ガイドラインが示されていますのでそちらを参照していただきたいと思いますが、重要な点はなるべく早く治療を開始し、早く発作を止めることに尽きると思います。痙攣発作は5分以上続くと自然軽快しにくく、重積状態として対応する必要があり、前述のガイドラインでも5分以内に治療を開始することとされています。治療薬として発作停止のためにはジアゼパムが第一選択で、その他ミダゾラムやフェノバルビタールなどが使用されます。また一旦痙攣が停止してもその後の再発抑制のためにホスフェニトイン(ガイドライン上はフェニトイン)急速飽和静注やミダゾラム持続静注が必須になります。それでも痙攣発作が停止しない場合にはチオペンタールやプロポフォールなどによる麻酔療法を考慮することになります。なおアルコール離脱による痙攣や振戦せん妄に対しては原則としてジアゼパムで対応します。
以上をまとめると1. アルコール中毒は神経系のあらゆる部位を障害しうる、2. Wernicke脳症が疑われる症例では早期の大量ビタミンB1投与が推奨される、3. 痙攣発作は早期に停止させる必要があり、そのための治療を躊躇しないことが重要、ということになるかと思います。